過酷な摺動環境で使用されるエンジン用チェーンの耐摩耗性の向上のため、チェーン部品の一つであるピン表面への表面処理技術(金属コーティング技術)の開発に長年にわたり取り組んできました。

当社が独自に開発し特許化されているVCN(バナジウム炭窒化物)コーティングを付した自動車エンジン用チェーンは、従来品に比べ高い耐摩耗性を有し、チェーンの長寿命化や小型・軽量化に貢献しています。

チェーンで培った技術・ノウハウを、他分野へも積極的に適用することにより、耐摩耗性の向上や表面損傷の低減といった付加価値の創出を目指しています。

特許第5608280号:「チェーン用軸受部、その製造方法、及びそれを用いたチェーン」

当社の表面処理技術(金属コーティング技術)

拡散浸透処理

金属の表面に他の金属元素又は非金属元素を拡散浸透させることで表面を改質する熱処理で、拡散させる元素に応じて様々な特性を付与することができます。

極めて厳しい摩耗環境で使用されるエンジン用チェーンの部品などについて、粉末パック法を用いたクロムの拡散(クロマイジング)やバナジウムの拡散(バナダイジング)を適用することにより、金属表面に硬質皮膜を形成し、摩耗性能の飛躍的な向上を実現しています。

粉末パック法

当社表面処理の特徴

表面硬度/耐摩耗性

当社では、クロムカーバイト皮膜(CrC)を硬度Hv1400以上、バナジウムカーバイト皮膜(VC)をHv2000以上で処理しており、 通常の浸炭や窒化などの一般的な硬質処理に比べて高い硬度を有しています。

また、2000N以上(体重200㎏の力士がぶら下がってるいるような力)の高い張力が発生する中で屈曲を繰り返す自動車エンジン用チェーンの構成部品に適用することで、自動車が20万㎞走行しても、構成部品の摩耗量は10μm(1mmの1/100)以下という、高い耐摩耗性を有しています。

厚膜/密着性

皮膜厚さを、数μmから10μm以上まで任意の厚さでコントロールすることができるため、寸法精度の厳しい精密部品については薄い皮膜を適用し、高い荷重が付加される機械部品については高い耐摩耗性を付与するため厚い皮膜を適用するといった、柔軟な適用が可能です。

また、密着性も高く、自動車用タイミングチェーンや可変バルブタイミング機構(VTC)といった、極めて厳しい摺動環境(高負荷環境)において使用される製品の構成部品に適用しても、皮膜は剥離することなく耐摩耗性を維持することが可能です。

生産性

特殊処理炉を用いた粉末パック法によるバッチ処理により、1回の処理で大量の部品を均一な仕上がりで処理することが可能です。

皮膜の種類・特徴

当社名称 SDH SV
表面処理 CrC処理
クロムカーバイト処理
VC処理
バナジウムカーバイト処理
表面硬度(硬化層厚さ) 1,400Hv以上
(数μm~10μm以上)
2,000Hv以上
(数μm~10μm以上)
特徴 CrCによる硬化膜を形成することで摩耗を抑制。

・耐摩耗性,耐食性,耐熱性に優れる
セラミックスによる高硬度な膜を形成することで摩耗を抑制。

・SDH以上の耐摩耗性を有す
被膜
イメージ

適用事例

エンジン用チェーン構成部品

  • 適用部品:チェーンピン
  • 適用皮膜:SDH、SV皮膜

可変バルブタイミング機構(VTC)構成部品

  • 適用部品:ロックピン、スリーブ
  • 適用皮膜:SDH皮膜

基礎研究(トライボロジー研究)

「トライボロジー」とは,潤滑、摩擦、摩耗、焼付き、軸受設計を含めた「相対運動しながら互いに影響を及ぼしあう二つの表面の間におこるすべての現象を対象とする科学と技術」を意味します。

耐摩耗性に優れた当社の表面処理技術は、摩擦・摩耗現象のメカニズムの解明を主眼とした長年にわたるトライボロジー基礎研究からの技術的知見を土台としています。表面処理技術の更なる進化を目指し、各種試験機を用いた摩擦係数、潤滑状態、摩耗状態等の観察と、より優れた摺動表面の研究に取り組むことで、技術的知見やノウハウの蓄積に努めています。

ボールオンディスク・ピンオンディスク試験機
フリクション試験機を用いた機能試験

寄稿論文(抜粋)

  • 2013年 トライボロジー会議 すす混入潤滑油中におけるセラミック皮膜の摩耗機構
  • 2014年 自動車技術会学術講演会 エンジン内チェーン用 耐摩耗表面処理の開発
  • 2017年 月刊トライボロジー 2017年12月号 エンジン内チェーンシステムの技術動向