プロジェクトD

Project D episode.1

MotoGPチェーンプロジェクト

開発×営業×生産技術×商品企画

Chapter.4【商品企画編】

ユーザーが欲しがるブランドを育てる

会社の技術力を証明した「520ERV6」をきっかけに、DIDのバイク用チェーンに新たな商品展開の流れが生まれました。トップライダーなどとのコラボでブランド力を高めています。

大石

僕が今回のプロジェクトに関わったのは、みんなの努力の末に「520ERV6」が採用されたあとのことだから、この場に座っているのはちょっと申し訳ないな(笑)。これまでの製品と比べても、特に画期的な性質のチェーンだったから、何か別の方向にも商品展開できないかを検討してほしいということで声がかかったんだよ。
DIDはこれまでにもレース仕様のチェーンを一般向けに発売してはきたけれど、あくまでレース用チェーンの技術を一部取り入れた商品であって、同じものじゃなかった。その上、「520ERV6」は最高峰のレースで高性能を出す目的に特に振り切ったチェーンだったから、検討はしたものの、そのまま一般に売り出すのは難しいという結論になった。ただ、その件でチーム側に相談したことがきっかけで、当時所属していたバレンティーノ・ロッシ選手のブランド「VR46」と交渉できることになったのは大きかったね。

浅野

ロッシ選手と言えば、バイクレース好きなら知らない人はいないレジェンドライダーだからね。しかも、2004年にMotoGPに参戦してからは、ずっとDIDのチェーンを使い続けてくれて、一時期ほかのチームに移籍していた頃でさえ、チェーンはDID製を取り寄せてたぐらいのお得意様だったんだよね。

大石

そうですね。「VR46」は他社とのコラボ商品はあまり展開してこなかったそうなんですが、本人がDIDの製品を愛用してきたからなのか、ありがたくもコラボの許可を受けて、今一般販売しているロッシ選手モデルのチェーンが生まれました。おかげさまで売れ行きも好調で、コラボの効果は十分に発揮できたと言えるでしょうね。

僕もロッシ選手のファンで、自分が設計したチェーンを彼に使ってもらうのが目標だったんですよ。ロッシ選手は2021年シーズンでバイクレースを引退してしまったので、「520ERV6」が現役時代に間に合ったのはラッキーでした。

大石

その引退に際して、ロッシ選手の功績を記念した数量限定のチェーンセットも、これまでのDIDでは出したことのなかった商品だったね。彼のイメージカラーであるネオンイエローのチェーンに、実際にレースで使用した「520ERV6」のプレートを組み込んだシリアルナンバー入りのクリスタルなんかも付けて。国内向けに35セットを用意したら、8万円を超える商品だったのに、抽選販売に1000名以上の応募が殺到して、あっさりと完売したのは驚いたね。

「VR46」とのコラボ商品はチェーンとしての性能は確保しつつ、内と外のプレートをゴールドとシルバーにしたりして、見た目にもこだわった商品ですよね。

大石

そうそう。DIDのチェーンは性能や使い勝手の良さをセールスポイントにしてきたけど、それとはまた違ったニーズにこたえる商品も送り出せることを証明できたと感じてるよ。ここでコラボ商品を展開する手法も学べたから、そのあとのエヴァンゲリオンレーシングや阪神タイガースとのコラボチェーンの発売にもつながって、DIDブランドの幅を広げられたと思う。

浅野

こうして振り返ってみると、開発と生産技術が持てる力の限界に挑戦して「520ERV6」を生み出してくれたことは、チェーンメーカーとしてのDIDの評価をもう一段上に引き上げてくれた気がするね。営業の現場では採用いただいたメーカーさんとの関係がより深まった実感があるし、展示会やイベントなんかでは、一般のお客さんが「さすがDIDのチェーンは出来が違うなあ」と感心してくださる声もよく聞くようになったよ。

そうだとしたら、うれしいですね。個人的にはイタリアのレースでMotoGPチームのピットにご招待いただいたときの印象が強いです。チームメカニックの方にチェーンの感想をうかがったときに、「Beautiful!」と力強くほめていただけたことは今後の開発にも励みになると思います。

僕としても、最初は実現困難に見えた設計や試作に正面から向き合ったことで、高いハードルでも乗り越えられる自信を与えてくれた仕事でした。いつも支えてくださる生産技術部門の先輩方への感謝を忘れず、常にチャレンジする姿勢を持ち続けて、技術ももっと磨いていって、付加価値の高いチェーンを送り出していきたいです。

大石

技術においても企画においても、DIDにはまだまだ魅力的な商品を開発できるポテンシャルがあることに気付かせてくれたプロジェクトだったんじゃないかな。トップライダーの要求にこたえられる性能と一般ユーザーのニーズを満たす商品力、どちらも提供できるメーカーになっていきたいね。